整体では燃え尽き症候群をどう扱うか

燃え尽き症候群、と言うのは要するに「仕事でとても疲れた」という事のようですが、一度職場の記憶と疲労が結びついてしまうと、職場を思い浮かべただけでもう疲れるようになります。つまりトラウマとか、条件反射のようなものですので、その解消に関してはその道の専門家に委ねたいと思います。

私は整体師であり、『整体』とは個人の偏り疲労を解消して、生命を余す事なく燃焼させる技術、思想体系です。ここでは、むしろ我々が「とても疲れた」状態にどう対処しているかを整体の視点から記述して参ります。

 

「偏り疲労」とは?

通常、人は全身がまんべんなく疲れると心地よい疲労感に包まれ深く眠り、朝にはスッキリ元気に目覚めることができます。しかし現代のように職業が細分化されると、パソコンで目と脳ばかりが疲れる、歯医者で利き手だけが疲れる、など疲労が偏るようになってくる事がよくあります。

すると自分では全身疲れ果てたように感じていても、体の他の部分は元気なので、元気な子供と疲れた子供を同じベッドで寝かすようなもので眠る時に深く眠れない。なので朝になってもスッキリ起きられない。こういう時は他の部分もまんべんなく使って疲れさせてやると眠りの質が良くなるので、仕事の後にジムに行って運動する人も多いようです。

しかし、それでも偏りが取りきれず蓄積してくると、漠然と運動しただけでは偏りを解消してグッスリ快眠、とはいかなくなってきます。この場合、偏りに対して焦点を絞った人体力学体操や、蒸しタオル法、操法などが必要になるでしょう。具体的な方法については後述いたします。

 

疲労とは何か

疲労とはエネルギーを消耗した状態ですが、エネルギーは弾力の中にあるので、「体が弾力を失った状態」と言えます。柳に雪折れなし、というように、柔らかい体は硬い体より強い。子供が転んで何ともなくとも、老人が転ぶと骨折する。「弾力を失うとストレスを受け止められる範囲が狭くなる」という言い方もできます。

これは感受性においても同じ事で、いつもなら笑って聞き流せる冗談でも、疲れていると激怒したり落ち込んでしまったりしがちです。

 

「カンがいい人」というのは相手の顔を見て何を要求しているのかわかる。ちょっとした仕草で寒いのだな、何か飲みたいのかな、上司がイライラしているけど、お昼を食べ損ねたからだな、等とサッと気がつきます。そういう人は子育ても上手なようです。

しかし、そういう人でも疲れるとカンが鈍くなってきます。センサーの感度が落ちる。視野が狭くなる。だから相手の要求が読めなくなり交渉に失敗する、ミスが増える、相手を怒らせて何が悪かったかもわからなくなる。

こういう疲れている時は、他人から見ると目に力がなく、いつもより小さく見えます。パートナーや子供であれば、ベッドの下の方に下がっているのに気がつくでしょう。これは寝返りを打ちながら下がっていくからなのですが、もっと酷くなると寝返りそのものを打たなくなります。

元気な時は、目に光があり、大きく見え、寝ていても上へ上へ上がっていったり、上下逆さまになっていたりします。

 

下丹田

しかし、もっとも総合的に体力を表す指標は『下丹田』の弾力を見る事でしょう。

下丹田とは、恥骨から指を横に並べて3本上にあるポイントです。仰向けに寝てここを押さえてみて、心地よい弾力がある人、ある時はエネルギーに満ちています。そういう時は上司に多少厳しい事を言われても、反発する力があるのでさらに頑張ったり、成長することもできるでしょう。しかしここに弾力がなく、凹んでいる時は反発できないので深く傷ついて、そのまま家に帰りたくなるかも知れません。

その、弾力というのは脂肪なのでは?と思われるかも知れませんが、どんなに太ってお腹が大きくても、どんなに筋肉がムキムキでも、疲れてエネルギーが尽きている人はここが凹んでいます。怒りっぽくてしょっちゅう物を壊しているような人も、ここが抜けています。

そういう時は呼吸が浅く短くなっています。肺の弾力を失っていますから、しぼんだ風船を抱えているようなもので段々と肋骨が下がり、鬱と言われる状態になりがちです。また肺の厚みに左右差が出ると、眠りが浅くなって悪夢にうなされるようになります。

これを解消するためには、発熱を利用するのが一番早道です。

 

風邪の効用

赤ちゃんは暖かく死人は冷たいように、『熱は生きる力』です。

整体では、伝統的に「風邪」を大事な身体恒常性の現れとみなしてきました。風邪は感染性の発熱を誘導し、発熱は身体の弾力を回復し、免疫力を鍛え、左右差を緩和します。

リンク:「風邪の効用」について

バーンアウトの特徴に「風邪やインフルエンザにかかりやすくなる」「吐き気」「頭痛」などがあるようですが、私はむしろ、それらは身体が弾力を取り戻すための努力だと考えます。

体は弾力を失って硬直してくると流れが悪くなり冷えていきますが、それでは困るので、弾力を取り戻す為に熱と痛みを使ってエネルギーを集める法則が体にはあります。なので熱が出たら、いい機会だと思ってしっかり活用すると良いのです。

 

「熱は良いものだ、活用してやるぞ」と思うだけで、リラックスして副交感神経が働くので悪いものが排泄されて行きます(整体では、熱、汗、咳、鼻水等は毒素の排泄とみなされます。吐き気は排泄をしよう、とする働きです)。

しかし、「熱が出て困った、早く下げないと仕事ができない」と思うと緊張して交感神経が優位になり、排泄が阻害されてしまいます。

 

発熱を利用できず、硬直が進むと体は弾力を失ってだんだん硬く、冷えてきます。これは携帯の充電池が古くなったようなもので、しっかり眠ってチャージしたつもりでもすぐ電池切れになる。そもそも深く眠れなくなり、夢ばかり見てどんなに長く寝ても朝、スッキリ起きられなくなる。

子供の頃は、ベッドで目を閉じると次の瞬間には朝になっていたと思いますが、例え短時間でもそういった深い眠りが必要です。

ではどうやって体をゆるめて、深い眠りを取り戻し、疲労を回復して元気になるか?その具体的な方法を書いていきます。

 

深息法

体力の指標である下丹田に直接エネルギーを集める事で、体力を回復する呼吸法です。「継続は力なり」と言いますが、毎日続ける事で、徐々に下丹田が充実して強くなっていきます。

 

  1. 仰向けになり、少し腰(腰椎3〜5番)を反らせる
  2. 息を深く吸って、下丹田をできるだけ膨らませる、約三回くり返す
  3. 再び深く吸い、下丹田の緊張を約70%残しながら息を吐いていく。
  4. その緊張をキープしたまま、胸だけで浅い呼吸を繰り返す。
  5. 30秒〜1分ほどキープして、苦しくなったら大きく息を吸って全身の力をゆるめる。

 

次の呼吸が大きく入ってくれば成功です。

慣れてくると、座った状態や立った状態でも出来るようになります。

さらに慣れてくると、下丹田が抜けたり入ったりした瞬間がわかるようになります。嫌な仕事をやらされると瞬間的に抜けますし、やりがいのある仕事を任されると入ります。

 

邪気吐出法

深息法が上手くできない時に、横隔膜をゆるめて深い呼吸が入りやすくする方法です。よく眠れない時に、深い眠りを導くのにも効果的です。

 

  1. 椅子に腰かけ、息を吐きながらみぞおちを両手の指で押さえていく。前屈しながら行なうと指が中に入っていく。このとき鈍痛を感じるかもしれません。
  2. 押さえた圧をゆるめずに、少し息を吸う。また前屈しながら、吐きながらさらに押さえてゆく。
  3. 2をもう一度繰り返す。息を吸いながら体を起こしていく。
  4. 1〜3を3回ほど繰り返す。

 

あくびが出れば大成功です。息を吐く時は、邪気(悪いエネルギー)を吐き出すイメージを持って「オエー」と声に出すとより効果的です。

 

リンパ体操

体が芯まで疲れて硬直すると、胸椎7番が硬くなり、脾臓の働きが悪くなり、免疫力が落ちます。風邪をひいて熱を出す事でゆるんできますが、なかなか風邪も引けない時はこの体操を続けて、少しづつ7番をゆるめて熱を待ちます。

 

  1. 仙骨を少し前傾させた状態で座る
  2. 右手の手首を左手でつかみ、両手を下に伸ばします
  3. そのまま両手を前から上げ、頭上に伸ばします
  4. それを12時の方向として、11時の方向に右手を伸ばし、約10秒間伸ばし続けます
  5. 手首をもちかえ、12時の方向に再び両手を伸ばします。同様に1時の方向に10秒ほど左手を伸ばします
  6. 2〜5を数回繰り返します。

 

腋窩リンパを伸ばす体操ですので、脇の下が伸びていれば成功です。脇腹が伸びている時は傾けすぎて失敗しています。

シンプルな体操ですが、朝晩続けていれば、数ヶ月後には流れが良くなって顔色がよくなっているのに気づくでしょう。しかしもっと大事なのは、免疫応答の感受性が高まりますので、必要な時に熱が出せるようになっていくことです。